sigureの記<Novel>

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zoom RSS Blue Rose #12

<<   作成日時 : 2006/05/14 23:15   >>

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どれだけの時間が経過したでしょうか。地下室にいるため、夕刻なのか、宵の
口なのか、パリスは見当が付きませんでした。眠ることも、この部屋から出る
ことも出来ず、パリスは、はやる気持ちを必死に抑えていました。収穫祭まで
は1ヶ月程ありますが、砂漠の旅は過酷を極める事でしょう。パリスはいくら
時間があっても足りないような気がしていました。ムーンダストの水を持ち帰
ることが出来なかった場合、一生ヘレネ姫の笑顔を見ることが出来ないのです。
せめて最後は、ヘレネ姫の向日葵のような笑顔を見てから、別れを言いたいと、
パリスは考えていました。
例えどんな苦痛にみまわれようと構わない。声高らかに笑いながら耐え抜いて
みせよう。もし、私の前に死神が現れ、ムーンダストの水と交換に心臓を差し
出せと言うのなら、自らの心臓をくり抜いてみせよう。だから、ムーンダスト
の泉よ、私の前に姿を見せてくれ。他には何も望まない。ムーンダストの水を
ここまで運ぶことが出来るのなら。
パリスは悲壮な思いを胸に、来るべき時を待ちました。
その時です、押しても引いてもびくともしなかった扉がゆっくりと開きました。
「パリス様、これを着て下さい」
ヴィオラの声でした。
パリスは言われるがままにヴィオラから手渡されたマントを頭から被りました。
「だまって私の後を着いてきて下さい。地下室の見張りには眠りの魔法をかけ
ました。しばらくは起きないと思います。王妃が旅の支度を全て整えてくれま
したので、厩舎に行けば旅に必要な資金、食料が用意してあります。あと、こ
れを」
そう言ってヴィオラは、砂漠の薔薇とムーンダストまでの道のりを示した地図
をパリスに手渡しました。
「ありがとう。後のことはよろしく頼む」
ヴィオラは注意深く様子を伺うように、慎重に動き出しました。パリスは後を
追い、地下の階段を駆け上がり、1階の通路から外に出ました。その間、魔法
で眠りに付いた兵士以外とは会うことはありませんでしたが、外に出たとき見
張り役の兵士二人と目が合いました。
パリスとヴィオラは目を合わせると、お互いの取るべき行動を悟り、速やかに
実行に移しました。
「ご苦労様です」
ヴィオラが通常より低い声でそう言うと、パリスは後に続き、軽く会釈をしま
した。
二人は早く歩きたい衝動にかられましたが、あくまでも平静を装い、怪しまれ
ぬよう同じ速度を心がけました。まるで薄氷の上を歩いているようです。
見張り役の兵士は二人を鋭い目つきで一瞥しましたが、咎めることなく、軽く
会釈を返しただけでした。パリスとヴィオラは息を止めるようにして、ひたす
ら歩き続けました。
二人はなんとか無事、厩舎に辿り着くことが出来ました。ここまで来てしまえ
ば一安心です。
パリスは一言も発する事なく、荷物を背負い、颯爽と馬に乗り込みました。全
く無駄な所作のない一連のパリスの動作は、はやる気持ちを如実に現していま
した。
もう、一刻の猶予もない。後は、自分の力を信じるだけだ。
パリスは自分に言い聞かせることにより、弱気な自分を隅に追いやりました。
人が腹を決めたとき、自分の備えている力以上のものが発揮されます。自分の
なすべき事がクリアで、最短ルートかをしっかりと把握していました。
「パリス様、ご無事で。旅の幸運をお祈りしています」
ヴィオラはパリスを見上げそう言いました。
パリスは一度優しく馬の首を撫でると、馬の脇腹を蹴り、手綱をしっかりと握
りました。
馬は月を目指すかのように前足を力強く空中に上げ、甲高い雄叫びを上げまし
た。
パリスの目は遠くを見据え、振り返えることなく右手を軽く上げました。それ
はヴィオラに対する無言の挨拶でした。一つ空気を吸い込むと、パリスは馬の
脇腹を強く蹴りました。馬は弓から放たれた矢のように一気に加速し、パリス
の姿はあっという間に小さくなりました。
ヴィオラはパリスの後ろ姿を見て、その風格に驚きました。地下の一室で出会っ
た苦悩に満ちたパリスとは別人のようでした。パリス様ならきっとムーンダス
トの泉に辿り着き、無事に戻ってくる。ヴィオラはそう感じていました。

Blue Rose To be continued

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